皆さんは訪問歯科というものをご存知でしょうか。
歯科医院に行くことができない方のお家やご入居されている施設にお伺いし、歯科医療を行う。それが訪問歯科です。今日はそんな訪問歯科の実情を新米歯科医師の僕の目線で書いていこうと思います。
訪問歯科の特徴
訪問歯科で来てもらうのと、歯科医院の中で治療を受けるのでは正直言って医療の質が大きく違うと言ってしまっていいと思います。
訪問歯科治療では器具がないことや診療姿勢がしんどいこともあって、医療の質としては悪いものとなりがちだと思います。また診療室では当たり前に患者さんに提案できる治療も選択できないこともザラです。
さらに訪問歯科で対応する患者は認知症患者なども多く、治療の質について多くを言わないことがほとんどです。また施設の場合は患者さんに対して職員さんも家族ほどは気にかけていないので、歯科医師の対応も診療室ほどシビアになりません。
訪問歯科でよく行われる治療は口腔ケア(お口のお掃除)と入れ歯の修理です。入れ歯の修理は訪問との相性は良い方で診療室に近しい質を担保できるかもしれません。しかし、口腔ケアはなかなか難しいと日々実感しています。その理由は超音波スケーラーという器具がないことが大きいと思います。これを使えば歯石や歯垢を効率よく除去できますが、これがないと時間内に綺麗にするのは難しいです。今多くの訪問歯科で行われている口腔ケアは誤解を恐れず言えば単なるブラッシングとさほど大きな差はありません。歯石が取れるかどうかくらいです。また毎週口腔ケアを一回だけ行ったとしてもそれだけではあまり意味はありません。考えてみてください。週一回だけ歯磨きをするだけで口の中が衛生的に保てるでしょうか。大切なのは日々介助する人が毎日お口の中をお掃除することができるかどうかなのです。私たち歯科医師がやるべきことはそのアドバイスをすることではないかと最近思うようになりました。
施設にご入居されている方にありがちなこと
色々な施設に口腔ケアでお伺いさせていただいていますが、口の中の状況は施設によって大きく異なります。週一回お伺いしている患者さんの中にはみる度、口の中にプラークが塊のように付着していることがあります。要するに職員さんは本人が歯磨きできないのに一回も口腔ケアを行っていないのです。またある患者さんは1ヶ月に一度しか見ませんが、口の中が綺麗です。これは職員さんの口腔ケアへの意識が高く、日々綺麗にしていただいている証拠です。毎日の口腔ケアは誤嚥性肺炎のリスクを下げることがわかっています。しかし、週に一回だけの口腔ケアがそのリスクを下げるかと言われれば疑問を持たざるを得ません。
口腔ケアは施設ごととは言わず施設のフロアごと、担当者ごとに違うこともあります。そのため、口腔ケアが適切に行われているかは口の中を見せてもらうか、口腔ケアを行っている歯科医師に直接聞くのがいいと思います。
訪問歯科での苦い経験
口腔ケアである施設にご入居されている認知症患者さんをお伺いした時の話です。患者さんはブラッシングが嫌いでいつもケアの時、「もういいから帰って、、、」と悲痛な顔でおっしゃられます。口の中は汚れていて、炎症が激しいですからブラッシングの最中は痛みも強く拷問されているような気分になるのだと思います。しないよりはしたほうがいいかと思ってケアしています。しかし、毎回綺麗にしても、施設の職員さんは口腔ケアをしないので炎症が引くことはありません。ご家族はそんな現状を知らないのでケアを続けて欲しいと言われます。歯科医師は施設の中で他の患者さんも診ていますから、施設とのトラブルはごめんです。そのため、わざわざ家族に施設の非を告げ口することはできません。そうして不幸な患者が生まれているように思います。できればご家族から口の中について問い合わせてもらえればオブラートにつつんでお伝えしようと思うのですが。
訪問歯科に意味はあるのか。どのような人が訪問歯科をするべきか。
訪問歯科をする意味のある患者は以下の患者だと思います
・口の中に悩みがありそれを解決して欲しい患者
・口腔ケアを方法を知りたい患者や家族、施設
・入れ歯を治したい患者 etc
逆に意味のない患者は
・周りの人間がケアするつもりのないのに訪問歯科でだけ口腔ケアをする患者
個人的な見解ですが上記の通りだと思います。
無駄な医療は患者を不幸にするだけだと思います。しかし、こちらも仕事なのでその仕事に大きな意味を感じなくてもすることも多いのが現状です。そのような不合理がいつまで続くのかはわかりません。